IoTゲートウェイメーカー「Robustel」に品質とセキュリティへのこだわりを聞いた
極寒の雪原でも、灼熱の砂漠でも使えそう 頑丈すぎるIoTゲートウェイに感激した
産業用を謳うRobustel(ロバステル)のIoTゲートウェイは「黒い」「ごつい」「メタリック」。通信のためにSORACOM IoT SIMを搭載し、どんな過酷な環境でも使えそうだ。知られざる産業用IoT機器のメジャープレイヤーであるRobustelに会社概要や設計思想、ソラコムとのパートナーシップについて聞いてみた。(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)
過酷な環境での動作に耐える産業用IoTゲートウェイ
今回紹介するRobustelのゲートウェイは、IoTセンサーからのデータを収集し、クラウドにアップロードする役割を担う。SORACOM IoT SIMを搭載し、マルチキャリアで通信が可能だ。同社ではゲートウェイのほか、ルーターやラズパイのようなエッジコンピューターまで多種多様な製品ラインナップを揃えているが、共通しているのは「ロバスト」「マネージド」「セキュリティ」という特徴だ。
「ロバスト」は社名に入っていることからわかるとおり、同社が非常に重視しているポイント。とにかく壊れない。見ればわかるとおり、とてもごつい。産業用途に特化し、劣悪な環境でも動作するタフな製品というのが大きな売りだ。
放熱性の高い大きめの筐体を採用し、ほとんどの製品が-25℃から70℃までの広い運用温度に対応する。Robustelの松本 明氏は、「この手の産業用機器が故障する最大の理由は熱です。だから、設計に余裕を持たせています」とコメント。この運用温度であれば、地球上で使えないところはないのでは?と思える。
運用管理が容易なマネージド製品であることも大きい。「PoCから本場運用に移る際に重要なのはやはりデバイスの管理。その点、Robustelはベーシックな管理機能は無償で提供しています。機器の死活監視や接続状態の管理はWebブラウザから簡単に確認できます」(松本氏)とのこと。
IoTで重要なセキュリティに関しては、さまざまな国際規格に準拠している。データセキュリティ標準の「ISO 27001」のほか、産業オートメーションや制御システムのセキュリティ規格である「IEC 62443」も取得。「日本企業では部門単位での取得がほとんどですが、Robustelは400人くらいという会社の規模もあり、全社的に取得しています。だから、すべての製品・ソフトウェアがセキュア・バイ・デザインで開発・運用されています。特にサイバーセキュリティの観点では安心してお使いいただきたい」(松本氏)。
さらに自社で利用している2種類のOSに関しても、第三者機関によるペネトレーションテストを毎年実施。NDA提供の上、顧客にレポートも提供している。「Robustelを積極的に選んでもらうためのファクトはすべてお出しします。これは産業用ゲートウェイを専業でやっているメーカーの矜恃であり、責任だと思っています」と松本氏は語る。
こだわりは品質 自社で設計し、スマートファクトリーで製造
メーカーであるRobustelは、創業15年を迎える産業用セルラーゲートウェイの専業メーカー。中国の広州に本社と工場をかまえているが、売上がほとんどはグローバルで、中国国内のビジネスを始めたのはごく最近だ。「もともと海外ビジネスがメインで、欧州、アジア、中近東、北米などに販売ネットワークを持っています」(松本氏)とのこと。知る人ぞ知る産業用IoT機器のメジャープレイヤーというのがRobustelの一面だ。
Robustelのこだわりは「自社生産」。汎用パーツでの開発にフラストレーションを抱えたメンバーが「もっといい製品を作れるはず」と起業したこともあり、標準パーツ以外はすべて自社で生産している。「中国の深圳に行けば、パーツはいくらでも売っています。実際、多くの製品はこれらのパーツを組み合わせて作られていますが、Robustelは基盤デザインから生産、アセンブリ、テスト、ソフトウェア開発まで自前で行なっています。品質が担保されていなければ、大規模な案件でお客さまからの信頼は得られませんから」と松本氏は語る。
自社開発を行なうことで、品質が担保でき、市場のニーズを製品に取り込みやすいというメリットが生まれる。単に故障率が低いというだけではなく、品質改善を継続的に行ない、仕様は顧客に公開している。「基板の裏の裏、コードの裏の裏まで見ていただき、採用を決めていただければと思っています」と松本氏は語る。前述したセキュリティへの取り組みも含め、こうしたオープンな姿勢が大企業の信頼を勝ち取っている要因と言える。
製品を生産している広州のスマートファクトリーは、インダストリアル2.0で謳われているような製造のデジタル化が進んでいる。「すべてのパーツが入荷から出荷までトレースできるよう、デジタルツインが構築されており、部品単位での品質改善が可能になっています」と松本氏はアピールする。
日本には2017年に進出し、サブスクリプションビジネスのデバイスとしてすでに10万台近い実績がある。「たとえば、家庭用のHEMSとバッテリを組み合わせたスマートホームで導入されています。普段、充電しておいて、災害時にはバッテリとして利用できるコントローラーの制御を行なっています」とのこと。その他、駐車場や無人店舗の精算機、決済端末などインフラ系のIoTの裏側を支えている。
船舶がIT化される 注目の「マリンサイバーセキュリティ」
今夏に投入される新製品としては、ネットワーク経由の電源供給を可能にするPoE対応のゲートウェイが挙げられる。「コロナ禍以降、グローバルで監視カメラの需要は非常に増えてます。そのときに重要になるのが、カメラへの電力供給。今まではPoEスイッチやインジェクターを使っていたのですが、PoEをゲートウェイに内蔵することで、デバイスを増やさずに済みます」(松本氏)とのこと。給電のためのトランスが内蔵されるため、十分な放熱が可能なよう、金属製の大型筐体を採用しているという。
また、Robustelはエレベーターや風力発電のメンテナンスなどニッチながら存在感を発揮できる領域で導入実績を持っている。現在注力しているのは「マリンサイバーセキュリティ」。「以前はいったん沖に出てしまったら、インマルサットで航行状況を連絡するくらいでした。今では積み荷の状態をリアルタイムに知りたいという要望が増えてきました。海図も定期的にアップデートしなければなりません。要は船上でも通信やIT、情シスにあたるものが本格的に必要になってきたんです」と松本氏は説明する。
今まで船舶内の運航に関わるOTネットワークはシリアルの通信がベースで、ITネットワークとも分離されていたが、今後は統合される可能性が高い。StarLinkのような衛星通信の選択肢が増え、リモートからの監視やメンテナンスなども可能になるが、当然サイバー攻撃のリスクも高まる。
こうしたリスクを懸念し、2024年7月以降に製造される船は、サイバーセキュリティ対策の規格を満たさなければならなくなった。これに対してRobustelでは国際規格に準拠したセキュアなゲートウェイを開発したという。現在はノルウェイのDNVや中国のCCSの承認を取得しているが、日本海事協会の承認も得られる予定だ。
お客さまのIoTジャーニーをソラコムとともにお手伝いしたい
品質に加えた、Robustelのもう1つの強みはパートナーとのアライアンスだ。ユーザーにあたるグローバルの産業系メーカーとの関係が深いのに加え、複雑な各国のレギュレーションに対応している点も大きい。「特に東南アジアは認証が複雑で、現地法人パートナーとのアライアンスが重要になります。その点、われわれは設立以来、パートナーとのビジネスを重視しており、長い付き合いを持つパートナーが現地におります」とロバステルのJoe Xu氏は語る。
ソラコムとは2024年10月に提携し、IoTの可能性を広げるパートナーとして期待しているという。「IoTの垣根をグッと下げ、さらに拡げている存在がSORACOMだと思っています。興味を持ったユーザーを取り込み、エッジに連れて行く。そのジャーニーをお手伝いできるのはとても楽しみです」と松本氏は語る。実際にエントリモデルはSORACOM IoTストアで小売しており、気軽に試すことができる。
利用を促進するSORACOMサービスとの連携に関しては、カスタムアプリケーションも用意している。松本氏は、「単純に見える化だけの時代は終わっており、データをいかに活用できるか?というフェーズに入ってきています。ですから、われわれも「SORACOM Harvest」などのサービスにできるだけシンプルにデータを取り込めるアプリケーションを用意しています」と語る。ストレージやサーバーの準備は不要でModbusのセンサーを簡単に設定し、SORACOMプラットフォーム上にデータを収集・蓄積できるため、PoCから先のビジネス化に注力できるという。
ソラコムへの期待は国内市場の開拓だ。「ソラコムさんはグローバルSIMをお持ちなので、日本メーカーが海外に展開する場合、現地法人を支援する際にはお手伝いできます。アジアの難易度の高い国こそ、ぜひご相談いただきたい」と松本氏は語る。