
iPhoneで、マイナンバーカード(以下、「マイナカード」)が使えるようになる。
デジタル庁は2025年6月6日、6月28日からAppleウォレットにマイナカードを入れることができるようになると発表した。iPhoneにマイナカードが入ると、マイナポータルへのアクセスなど、マイナカードによる認証が必要なサービスを受けられるようになる。
カードを持ち歩かなくても、手元にスマホがあればスマホの生体認証を利用することで、引っ越しをした際の手続き、コンビニで住民票を受け取る、マイナポータルで年金の支払い状況を確認するといったサービスが利用できるようになる。また、カードに記録されている氏名、生年月日などの情報を送信をし、本人確認をする機能も搭載される。
一方、Androidのスマホについては、iPhoneより先行して2023年5月に電子証明書の機能が使えるようになっているが、本人確認に必要な情報を送信する機能は搭載されていない。「早期の搭載の実現に向けて話を進めている」(平将明・デジタル相)という。
市役所や区役所での手続きや、金融機関での口座開設、新規のスマホの契約といった場面で、iPhoneさえあれば本人確認ができることになる。便利になる反面、iPhoneとマイナカードのロックを破られたら、様々な悪さができてしまう。このため、アップルに課せられるセキュリティの負担はこれまで以上に重くなるはずだ。
ここで、ひとつの疑問が浮かぶ。12月に施行が予定されている「スマホソフトウェア競争促進法」(いわゆる「スマホ新法」)の存在だ。スマホ新法の柱として、他社がアプリストアを開発して、iOSやAndroid上で運営できるようにさせるという規定がある。
それぞれのスマホOSでアップルとグーグルがアプリストアを運営しているが、スマホ新法は、他社の参入を促す狙いがある。新法の施行でアプリを巡る競争が促され、価格の低下や、新たなサービスの登場といった効果が期待される一方で、セキュリティなどの面で懸念も指摘されている。たとえば、他社のアプリストアが使えるようになれば、ぜい弱性のあるアプリがスマホにインストールされかねないといった懸念だ。
マイナカードを搭載したiPhoneでできることは
政府は、自治体や民間企業のサービスでの利用、国家資格の保有状況の確認など、マイナカードの機能の拡大を進めており、デジタル庁のウェブサイトでも、マイナカードの活用事例を紹介している。
活用事例を確認すると、銀行の口座開設、生命保険の契約、証券口座の開設、イベントのチケットの購入、就職活動での本人確認など、すでに幅広い場面でマイナカードが使われていることがわかる。さらに、マイナカードを搭載したiPhoneは今後、健康保険証や運転免許証としても使えることになる計画だ。
平将明・デジタル相は6日の記者会見で、「iPhoneを利用しているみなさまは、ぜひ(マイナカードの)搭載を進めていただきたい」と述べている。
スマホの役割は重くなる一方
政府がデジタル化に舵を切り、その制度設計の中心にマイナカードとスマホを置いたことで、日常生活におけるスマホの役割は一気に重くなった。家族や取引先と連絡を取り、ニュースをチェックし、様々な支払いをするだけでなく、行政や銀行での手続きで身分証明書としてスマホを提示する──。
役割が重い分、一度でも情報を抜き取られれば、個人が受ける損害は計りしれない。しかし、冒頭でも述べたように、12月施行のスマホ新法では、iPhone、Androidのセキュリティの低下について懸念が指摘されている。
スマホ新法には、制度のひとつの柱としてアプリストアの新規参入を促す規定が置かれている。これまで、iPhoneユーザーはAppStoreで、AndroidユーザーはGoogle Playでアプリを購入する環境が固定化されてきたが、他社のアプリストアが参入すれば、アプリの利用料の値下げ競争が起きるなど、プラスの効果が期待される。
一方で、セキュリティをめぐって負の効果も指摘されている。アプリストアで販売されるアプリの審査をめぐっては、アップルが厳格で、グーグルはゆるめのポリシーを採用していると考えられているが、新たに参入するアプリストアの事業者はザルのような審査をするかもしれない。そうなると、セキュリティの面で問題のあるアプリがスマホにインストールされ、個人情報が漏れ、金銭的な被害も生じかねない。
「競争」と「セキュリティ」の両立は可能か

この連載の記事
- 第338回 「米国SNS検閲ならビザ発給制限」トランプ政権の狙いは
- 第337回 ステーブルコイン、米国と香港で法制化に進展 トランプ氏の蓄財装置にも
- 第336回 アップル、グーグルの独占に歯止め? 「スマホ競争促進法」12月施行へ
- 第335回 日本のコンテンツ産業、海外市場で“半導体超え”──20兆円市場の鍵を握るのはマンガか
- 第334回 証券口座乗っ取り、自衛しないとまずい
- 第333回 トランプ大統領の仮想通貨「TRUMP」が急騰 親族の蓄財か?
- 第332回 “ブロッキング”議論再燃 オンラインカジノめぐり
- 第331回 「タイミーだけのお店」登場──スキマバイトは飲食業を救う?
- 第330回 任天堂の工場が米国に? どうなるトランプ関税
- この連載の一覧へ