このページの本文へ

科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第8回

【JSTnews5月号掲載】さきがける科学人vol.151

数百万件にも及ぶナースコールのデータ分析で目指す寄り添う看護の実現

2025年05月30日 07時00分更新

文● 畑邊康浩

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

福重 春菜Fukushige Haruna
神戸大学 大学院保健学研究科 助教大阪府出身。2021年神戸大学大学院保健学研究科博士後期課程修了。博士(保健学)。神戸市立医療センター中央市民病院、神戸市看護大学助教を経て、21年より現職。22年よりACT-X研究者。

Q1 看護に関心を持ったきっかけは?
A1 大好きだった祖父を看取った経験

 看護に関心を持ったのは、高校時代に大好きだった祖父を看取った経験がきっかけでした。病床の祖父に「何かしてあげたいけれど、どうしてあげたら良いかわからない」というもどかしさを感じ、看護学を学ぶことで大切な人に寄り添うスキルを身に付けたいと思いました。

 病院で働く看護師への想いを強くしたのは、大学在学中にアルバイトをしていた耳鼻科クリニックでの経験が大きかったです。そこで、聞こえにくかったり、鼻が詰まったりすることが、どれほど人の生活に影響を与えるかを実感し、私も看護師として誰かの生活を支えたいと強く感じました。

 大学卒業後は、病院で働き充実した生活を送っていましたが「もっと患者さん一人一人に丁寧に寄り添いたいのに、忙しさの中でその時間が十分に取れない」ことに、歯がゆさを感じていました。そこで現在は、その課題を解決するために、看護師がより力を発揮できる環境を構築するための研究に取り組んでいます。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 臨床で活用できるよう精度高く

 ナースコールは、とても有効なコミュニケーションツールです。一方で、すぐに患者さんの所へ駆け付けるという特性上、じっくり患者さんと会話をする時間が短くなったり、看護師の忙しさの原因にもなったりします。そこで、より速やかに患者さんのベッドに駆け付けることができ、かつ看護師の動きが効率的になるような対応方法を探求しています。

 JSTのACT-Xでは、ナースコール発生前の対策を講じるために、AIを用いて数百万件に及ぶコールの履歴データを分析し、発生予測に取り組みました。同じ疾患でも患者さんによって使用傾向は大きく異なるので、個々の患者さんの特性を考慮できないかと考えています。分析の結果、一見ランダムに見えるナースコールの発生にも、いくつかのパターンが存在することが明らかになりました。これは、患者さんのベッド配置や看護師の人員配置などを、今以上に工夫できる可能性があることを意味します。

 今後は、実際に臨床現場で活用できるように、いつどのように発生するのかを、高い精度で予測できるようにすることを目指しています。また、中には遠慮や我慢などからコールをなかなか押せない方もいます。そうした方の声なき訴えへの対応も、データの活用によりサポートできればと考えています。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 飛躍的なアイデアと工夫を

 これから研究者を目指す方には、研究により「わからなかったことが、わかるようになる喜び」を知ってほしいです。私自身も、データを読み解き、混沌とした看護現場の実態が可視化され、傾向やパターンが見えてきた時は、そういうことだったのか、それなら対策できるかもしれないと、とてもワクワクします。

 少子高齢化が進む日本では、看護師が果たすべき役割は、今後さらに増えていきます。実際、コロナ禍で医療資源が不足した時には、知恵を絞って工夫をしなければ、現状を維持することさえ難しいのではないかという危機感を覚えました。この状況に対応していくには、従来の方法の延長線上だけでなく、枠にとらわれない飛躍的なアイデアや工夫が必要だと思います。これから看護学に飛び込んできてくれる方々と共に、知恵を絞ることで、良い未来を開きたいです。

まとまった休みが取れると、沖縄県の座間味島に海ガメやクジラ、島の人に会いに行きます。

研究説明会の写真です。一般の方にご協力いただき、入院時だけでなく日常生活におけるデータの研究もしています。

カテゴリートップへ

この連載の記事
  • 角川アスキー総合研究所