“ノーコード&ローコード”がビジネスの現場をデジタルに変える
DXや内製化の切り札と目されるのはなぜか?
現場と開発は今日もミスマッチ ノーコード・ローコードが必要な理由
2025年05月20日 09時30分更新
現場ユーザーが自らシステムを構築できる「ノーコード・ローコード」。自社のITスキルを高め、業務改善やビジネス刷新を進められる「内製化の切り札」として多くの企業から注目を集めている。DXの文脈での追い風となっているノーコード・ローコード登場の背景にある現場と開発側のミスマッチとトレンドについて説明していく。
業務にコンピューターを用いたときからミスマッチは起こってきた
「ノーコード・ローコード」とは、現場のユーザーが自らシステム開発を可能にする開発ツールの総称である。ここで言う「現場のユーザー」とは、開発スキルを持たない業務部門の普通のビジネスパーソンを指す。自ら抱える業務課題を解決すべく、自らシステムを作れる「内製化」が、ノーコード・ローコードの目指す理想像である。
業務システムの開発は長らくシステムの開発スキルを持つ情報システム部や外部のシステム開発業者が担当していた。現場の課題をヒアリングし、開発に必要な要件定義を行ない、開発を行ない、テストののちに、納品するというのがざっくりしたフローだ。業務課題は現場にあるが、ビジネスパーソンはシステムの開発スキルを持っていないため、情報システムや外部のシステム開発業者に委託するしかなかったのである。
しかし、情報システム部や外部のシステム開発業者は、業務課題の前提となる業務の理解が不足している。もちろん、要件定義のために、業務フローや課題の説明は行なわれるのだが、現場部門と違って解像度は高くない。自ら手を動かさない業務のシステム化を担うのは難しく、現場からは「ほしかったのはこれじゃない」と言われてしまう。当然、業務の理解や仕様確定に時間も納期もかかるため、納品したときには、市場や顧客が変化しているということも起こる。
この現場側と開発側のミスマッチは、ある意味コンピューターを業務に使い始めた頃から解消されてこなかった問題とも言える。特にシステム開発を外部に委託する割合の高い日本では、このミスマッチが顕著。実際に導入されたものの、現場に根付かずにオワコン化したり、コストと時間だけを費やしてしまい、結果プロジェクトが頓挫したという例は枚挙にいとまがない。
もちろん課題を解消すべく、現場自らがシステム開発できる仕組みやツールは過去に何回も試行されてきた。そして、そのたびに「エンドユーザーコンピューティング」「市民開発」「ラピッド開発」などといった言葉でもてはやされてきた。しかし、現場のビジネスパーソンが作れるほど開発ツールが簡単ではなかったこともあり、ミスマッチは容易に解消されていない。ノーコード・ローコードも、こうした何度も行なわれてきた現場主導のシステム開発に向けた1つの取り組みと言える。
ノーコード・ローコードを後押しする3つのトレンド
現場主導のシステム開発に向けた何回目のトレンドであるノーコード・ローコードだが、製品自体の進化はもちろんのこと、導入を後押しする市場的なトレンドも出てきた。
1つ目は、業界・業種を問わない汎用業務の多くがSaaSでカバーされるようになったことだ。今まで汎用業務は高価で導入や運用の難しかったオンプレミスのパッケージを利用していたが、この15年のクラウド化・SaaS化によりハードルが下がり、中小企業でも導入可能になった。サーバーなどを自社で抱えないSaaSの特性として、オンプレミスよりは他社サービスへの移行も容易。最近では業界・業種に特化したバーティカルSaaS・ホリゾンタルSaaSも増えてきたため、多くの業務課題をSaaSで解消できるようになってきた。一方で、自社固有業務や基幹システムとの連携など、ノーコード・ローコードで解決すべき課題が集約されてきたと言える。
2つ目は、ご存じDXの隆盛である。企業の競争力を高めるべく、DXに前向きに取り組む経営者が増えたことで、デジタル化が一気に進んだのは大きな潮流。人手不足によって業務効率化は待ったなしとなり、別稿で解説するAIの台頭により、デジタル化前提で多くの業務の自動化も見込まれるようになっている。こうしたDXの取り組みにおいて現場部門による内製化を推進する企業も多く、ノーコード・ローコードを受け入れる素地が整ってきたと言える。コロナ渦でのテレワークを経て、ビジネスパーソンのデジタルリテラシーも確実に上がっており、現場側と開発側の知識ギャップも埋まりつつある。
3つ目は、ビジネスのスピード感が大きく変化している点だ。「トランプ関税」を代表として、市場動向が迅速に変化するため、企業はシステムを追従させる必要性がある。これに対して、既存の情報システム部や外部のシステム開発業者による開発では、もはやスピード感が合わなくなっている。業務と市場を理解する現場部門が、つたないながらも、内製化でシステムをアップデートできる仕組みが重要になっているわけだ。
次回はこうしたトレンドの中、ノーコードとローコードの違い、台頭してきたAI駆動型開発との関係について見ていきたい。

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