連載:今週の「ざっくり知っておきたいIT業界データ」 第186回
IT市場トレンドやユーザー動向を「3行まとめ」で理解する 5月24日~5月30日
生成AIへのデータ送信量が急増、情報漏洩リスク高まる/中高年のキャリア支援が“後回し”になる理由、ほか
2025年06月02日 08時00分更新
本連載「ざっくり知っておきたいIT業界データ」では、過去1週間に調査会社などから発表されたIT市場予測やユーザー動向などのデータを、それぞれ3行にまとめてお伝えします。
今回(2025年5月24日~5月30日)は、企業における生成AI利用の増加と情報漏洩リスクの高まり、日本企業がトップとなったAI投資実施率、国内セキュリティソフトウェア市場の成長率、若手が優先され中高年が“後回し”になる企業のキャリア育成の実態についてのデータを紹介します。
[AI][セキュリティ] 生成AIへのデータ送信量がこの1年で30倍に増加、情報漏洩リスク高まる(Netskope、5月28日)
・企業から生成AIアプリへのデータ送信量が大幅増、情報漏洩リスクが深刻化
・日本企業の約7割で「従業員が直接、生成AIアプリを利用」
・日本では知的財産の共有が90%と最多、世界ではソースコード48%が最多で傾向に差
Netskope Threat Labsによる生成AI利用実態のグローバル調査。企業ユーザーから生成AIアプリに送信されるデータ量は、この1年で30倍に増加した。また日本企業の68%で、従業員が「ChatGPT」「Google Gemini」「Perplexity AI」といった生成AIアプリを直接利用しているという。その結果、企業からの機密データ漏洩リスクが高まっており、日本企業では「知的財産」(90%)、「規制対象データ」(6%)、「ソースコード」(4%)の順でデータポリシー違反が見つかっている。なお、グローバルでは「ソースコード」(48%)の比率が最多だった。
⇒ 「生成AIへのデータ送信」という、新たなかたちの情報漏洩リスクが生まれています。その対策として、すでに日本企業の56%が「1つ以上の生成AIアプリをブロック」、またポリシー違反の警告を表示する「リアルタイムユーザーガイダンス」の導入も51%(グローバル平均は34%)と進んでいます。
[AI][投資] AIに対する投資実施率、日本企業は90%で13カ国中トップ(Coltテクノロジーサービス、5月30日)
・企業のAI投資実施率、調査対象13カ国中で日本が1位、米国などを上回る
・5社に1社が「年間1億円以上」、ほぼ半数が「年間3500万円以上」を投資
・日本企業の優先投資先は「業務革新・製品開発」(38%)、「コンテンツ作成」(36%)が上位
米国/欧州/アジア13カ国のITリーダー1236人を対象とした「IT優先事項調査」より。現在AIに投資している企業の割合は、日本がトップ(90%)で、米国(84%)、ドイツ(69%)、英国(68%)を上回った。年間100万ドル(約1億4300万円)以上を投資する企業の比率は、シンガポール(27%)、英国(18%)、米国(14%)が高い。
⇒ AI投資に対する日本企業の積極性が際立つ結果となっています。なお、日本企業のIT優先課題は「ITインフラの環境影響軽減」(35%)が最上位で、「セキュリティとレジリエンスの強化」(30%)、「ITインフラの環境への影響の理解」(28%)が続いています。
[セキュリティ] 国内セキュリティソフト市場は約15%成長、ランサムウェアが投資促進(IDC Japan、5月27日)
・国内セキュリティソフトウェア市場規模、2024年は前年比14.6%増の5861億円
・EDR分野は22.8%増、セキュリティ分析は22.9%増と大きな伸び
・2029年には1兆円超の市場規模に達すると予測
国内セキュリティソフトウェア市場は2024年、前年比14.6%の成長となった。背景には、国内でもサイバー攻撃による被害が増加し、それによる情報漏洩や業務停止が多発したことで、経営層がセキュリティリスクを深刻に受け止めるようになったことがあるという。さらに、生成AI導入に伴う新たなセキュリティ課題(前述した情報漏洩リスク)も投資を後押ししている。機能カテゴリ別の伸びを見ると、Security Analytics(セキュリティ分析)市場が前年比22.9%増、Identity and Access Management(ID/アクセス管理)市場が同15.8%増など。セキュリティ分析市場では特に、Threat Intelligence(脅威インテリジェンス)やVulnerability Management(脆弱性管理)分野が40%超という高成長を記録している。
⇒ セキュリティソフトウェアへの投資は、今後も同レベルで増え続けると予測されています。成長の牽引役としては、「ID管理/認証」「アクセス管理」「データセキュリティ」など、企業の生成AI活用拡大を支えるものが中心とのこと。
[人事][キャリア] 企業のキャリア支援、7割が「若手優先」で中高年は後回し(ニューホライズンコレクティブ、5月27日)
・69.2%の企業が「若手のキャリア支援を優先」と回答、中高年支援は後手に
・理由は「若手育成の方が重要」、「若手の方が意識が高い」など
・中高年支援の障壁は「社内ノウハウ不足」、「中高年社員の意識の低さ」
中高年(40~65歳)と人事担当者、経営者を対象とした調査「中高年の社外交流とキャリア意識」より。企業側の74.9%が「中高年のキャリアサポートに満足している」と回答した一方、中高年社員で「満足している」人は半数以下にとどまった。また、企業の約7割は若手育成を重視。その背景には「若手育成の方が重要」(47.8%)、「若手の方が意識が高い」(43.2%)といった意識があり、他方で「適切なキャリア支援方法がわからない」(34.2%)など、中高年支援の見えにくさや扱いにくさも影響している。一方で、企業は中高年のキャリア支援に「生産性向上」(43.5%)、「人的資本最大化」(42.8%)など高い経営効果を期待している。
⇒ キャリア育成では「若手優先」の姿勢が明らかに。意図的な中高年軽視というよりも「見えにくさ」「扱いにくさ」「仕組み化のしにくさ」といった複雑な要因が絡んでいるとのこと。

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