AI insideとYOUTRUSTの実践知にみる利点と課題
Devin活用の2社はどう変わった? コーディングエージェントは“組織的導入”が競争力に
2025年06月04日 08時00分更新
AIによるコーディング支援は、急速に定着しつつあり、自律型エージェント「Devin」が登場するなど、ツール自体の進化も目覚ましい。AIと人の協働が始まる中で、開発の現場や組織はどう変わっているのか。
AI insideが2025年5月30日に開催した説明会では、DevinやCursorを大規模導入したAI insideとYOUTRUSTから、導入の背景からその成果、課題までが語られた。
AI insideの執行役員 CTOである井上拓真氏は、「『自律型エージェントにすべてを賭けよう』というのが、創業から10年、AIにベットしてきた当社の結論」と強調。加えて、「(AIツールを)全力で使う組織と、一部のみで使う組織では、効率化以上に大きな差がある」と述べた。
“ソフトウェアエンジニアリング能力”の重要性はさらに増す
まずは、AI insideにおける、Devinの活用事例が披露された。同社は、「AIで、人類の進化と人々の幸福に貢献する」をパーパスとし、AI OCRサービス「DX Suite」などのAIプロダクトを手掛ける。エージェント型AIの進化が加速する中、AIと当たり前に働く「Work with Buddy」を実践し、プロダクトにも反映していく方針をとる。
その一環として、自律型のソフトウェア開発エージェントである、Devinを導入。井上氏は、同ツールについて、「ひとつの命令で数千行のコード、数十のファイルを生み出し、開発向けエージェントの中でも自律性が高く、より複雑なことができる」と評する。
組織として大規模導入しており、加えて、ほぼ使い放題で運用している。活用に対する心理的ハードル下げることで、色々なことを試しやすく、ノウハウが溜まりやすい環境をつくることが狙いだという。それにより開発者のレベル、ひいては組織のレベルも上がる。
Devinを導入してわずか1か月だが、既にDX Suiteの開発において、さまざまな成果が得られている。
全体のPR(プルリクエスト)の内、Devinが50%を作成。修正の20%をDevinが手掛けており、これは社内の開発者と比べても2番目に多いという。さらに、現在は本番環境の15%がDevinの書いたコードになっており、最終的には80%にまで引き上げることを目標としている。
開発組織にも影響を与えている。従来、開発開始から承認(マージ)されるまでに平均2日以上かかっていたのが、Devin導入後は平均1日以下に短縮。これは、大部分の機能追加やバグ修正をDevinに任せられるからであり、開発者はその分、品質向上や上流工程に集中できる。Devinへプロンプトやナレッジを与える中で、暗黙知が減り、「形式知」が蓄積されるなど、組織文化にも影響を与えているという。
実際に使いこなしている開発者からは、「8割近くのコードをDevinが書いている」「別の仕事ができ、生産性が2倍になった」という声が上がっているという。人と違って気を遣わずに済むため、心理的な負荷が下がり、気持ちよく仕事ができるようになったという意見もあった。
一方で、「依頼をテキスト化するのが面倒」という反応もあり、それも含めて、使いこなす開発者の「二極化」が進んでいるのが課題だ。まだまだ、現場のエンジニアがDevinの利点に気づいていないのが現状であり、事例を共有するなどして、これを解消していくという。
最後に井上氏は、AIとの共同開発が進むことで、「ソフトウェアエンジニアリング能力の重要性は増していく」と考察する。「Devinは、現在、使う人の能力以上のことはできない。使う人の能力に依存する。開発者がいらなくなるのではなく、その逆で能力の重要性が増していく」(井上氏)。
一方で、AIに外注できることが増えるほど、重要性が減るのが「労力」だ。そのため、「労力を売っているだけのビジネスは、危機感を持たなければいけないと」と井上氏。
AI insideでも、2025年度より、労力を売る業務委託を終了する予定だという。ここには、人員を削減するという意図はなく、エンジニアリング能力を重視して採用は継続する。そして、大量のDevinを活用しながら、開発者の能力を最大限に引き出す、持続可能な開発体制へと転換していく。
